旅行記

スイス旅行記

奈良県立五條病院 吉田 崇

医大から五條病院に舞い戻ってはや3年、毎日の採血にも慣れてきました。昼過ぎまで採血、後はワープロ打ち、ときどきマッチング、他の検査は当直時に行う程度、というルーチン検査業務から一人あぶれた日々を過ごしております。
 さてスイス旅行記を書けという事ですが、去年のことなのでさっぱり忘れました。今年行った北アルプスの双六岳周辺のほうがスイスよりずっと楽しかったような気がしているのですが、とりあえずスイスの地図、宿のレシート、写真などを引っ張り出してきて、それを見ながら書こうと思います。大手旅行会社の添乗員付きお気楽ツアーでしたが、山に興味のある方に読んでいただければ幸いです。

旅行期間:2005年8月30日〜9月6日

1日目:関空→パリ→ジュネーブ
2日目:ジュネーブ→シャモニー(仏)→テーシュ→ツェルマット
3日目:ツェルマット
4日目:ツェルマット→アンデルマット→グリンデルワルト
5日目:グリンデルワルト
6日目:グリンデルワルト→ルツェルン→マイエンフェルト→チューリッヒ
7・8日目:チューリッヒ→パリ→関空

スイス、国の面積は九州程度ですが、縦横無尽に鉄道が走っており日本との時差は−8時間です。旅行の目的はアルプスをのんびりハイキングすることでした。
 
ツアー人数は30名ほど、おっちゃん、おばちゃんのグループが多く、新婚さんも一組混じっておりました。
 関空のスタンドでうどんを食べて日本食に別れを告げた後、12時発の飛行機でスイスへ飛び立ちました。2回ほど機内食を食べて一眠りしたらフランスのドゴール空港に着きました。安いツアーには乗り換えが付き物です。添乗員に連れられてジュネーブ行きに乗り換え、スイス到着は現地の夜10時頃でした。やれやれ、という感じでジュネーブ空港近くのホテルに宿泊。明日からの天気が良いことを祈って眠ったと思ったら朝になりました。
 初日から快晴でした。ツアーバスにてモンブラン観光へ。喧嘩しないようにバスの席まで日替わりで決めてくれてありました。モンブラン(4807m)はフランス領にあるので、再び国境を越え、シャモニーに入り、ロープウエイに乗り換えてエギーユ・デュ・ミディ展望台(3842m)へ。このロープウエイ、山麓の乗り換駅から頂上までロープの支柱が一本も無く、真上にぐいぐい引っ張られる感じはスリル満点です。展望台からはフランス、イタリア、スイスの山々のパノラマです。でもどこがどの山かさっぱりわかりません



 目の前にそびえる真っ白な雪の塊がモンブランでした。また遥かイタリア方面の、ノコギリの刃のように鋭いギザギザの山並みにも圧倒されてしまいました。日本の山とスケールがあまりに違いすぎです。
 広い板敷の展望台で寝転んで、でっかい山を見上げながらしばらく日向ぼっこをしました。天気が良くて最高でした。雪の照り返しがきついのでサングラスは必携アイテムです。下山後の昼食は、ポテトグラタンでした。山の素晴らしさは文句なしでしたが、ツアーの食事は、イマイチです。
 モンブラン観光の後は、再びバスでテーシュまで移動し、列車に乗り換えツェルマットへ。ツェルマットの村に入って、あこがれのマッターホルン(4478m)にお目にかかりました。村は谷底にあるので、ちょっと曇ったら見えんのやろうなあ、と心配だったのですが、駅前の通りを抜けたら、鋭角に尖った山容が目に飛び込んできました。遠くに見えてもトンガリはやはり迫力があります。私の好きな小説『孤高の人』の著者として有名な新田次郎が『座したる巨人』と呼んだのも少しわかるような気がしました。

 

 村はガソリン車乗り入れ禁止で、馬車とミニ電気自動車がウロチョロ走っており、駅前のにぎやかな通りを抜けてロッジ風の宿へ夕方チェックインしました。閉店法というのがあるそうで村の店は夕方6時ごろに閉まってしまう為、チェックイン後すぐに水と食料を買いに出ました。土産物屋も例外ではなく夕方には閉まっていました。宿からもマッターホルンが見えたので、日が暮れて真っ暗になるまで、ずっと眺めていました。夕食はミートフォンデュでした。油で肉を揚げながらマヨネーズ風のタレで食べるのですが、これも期待したほど美味くはなかったです。焼肉のタレを持ってきたらよかったなあ、と思いながらもパクパク食べていたら、ツアーのおばちゃん連中が、「肉ばっかり食べられへんわ」、とか「お腹いっぱいやから食べて」といって私の前に肉やらデザートやらを持ってきました。勘弁してくれヨ、という感じでしたが、怖くて何も言えませんでした。おばちゃん連中の隣の席は危険です。
 翌朝、有名なマッターホルンのモルゲンロート(朝焼け)を見るために、夜明け前に宿を抜け出し、マッターフィスバ川沿いの道を散歩しました。やがて日の出と共に、薄暗い景色の中でマッターホルンの先端が赤く染まってきました。
  視線は頂上に釘付け、早起きした甲斐がありました。川に架かる橋は絶好のフォトスポットで、後ろを振り返ると観光客がずらりカメラを構えて並んでいました。期待通りの素晴らしい朝焼けを楽しんでから朝食を済ませ、ツェルマット駅へと向かいました。今日の天気も良さそうです。まずはマッターホルンの展望台のひとつであるゴルナーグラート(3089m)へ。
 気になるマッターホルンの様子は、ライブカメラによって、ホテルのパソコンや駅のTVで確認できるようになっていました。

http://bergbahnen.zermatt.ch/e/web-cam/

 駅を出発した登山列車はゆっくりと急勾配を登り、アルプスの景色を楽しませてくれます。列車は森林限界を越え、マッターホルンもしだいに大きくそびえて来ます。この沿線は、ハイキングコースにもなっていましたが、歩いて登るとなかなか大変そうです。
 ゴルナーグラート駅で下車すると展望台は案の定、観光客でごったがえしていましたが、少し登った山頂からは360度の眺望を存分に楽しめました。ヨーロッパアルプス第二の高峰モンテローザ(4634m)も目の前です。モンテローザからマッターホルンへの稜線には4000m峰がずらり並んでおり、氷河も見渡せます。ここからのマッターホルンは東壁を正面に、北壁がほとんど隠れた格好でした。
 山頂で山座同定したり写真を撮ったりしてからハイキングを開始しました。線路沿いに広がる斜面を下ります。ひたすら下山する楽ちんなハイキングです。しかも氷河や4000m級の山並みを眺めながらなので、すごく贅沢な気分です。下っていくとリッフェルゼーの山上湖に着きました。
 この湖は湖面に写る逆さマッターホルンの美しさで有名です。しかし少し雲がかかって山頂が隠れてしまいました。早朝は晴れていたのですが、やはり昼頃になると雲が出やすいようです。湖畔でマッターホルンを眺めていましたが、雲が流れそうにないので、諦めてさらにリッフェルゼーの駅まで下りました。ここから自由行動でした。いったん村へ戻って、今度は地下ケーブルに乗ってスネガ展望台に上ってみることにしました。標高2288mのスネガ展望台は、村の地下ケーブルに乗って3分程度で、あっという間に到着です。気軽に行けるようになっていました。ケーブルの駅を探すのに少し手間取りましたが、登山列車の駅とは川をはさんで反対側にありました。地下というンの裾からそれに連なる山々を全体的にみわたすことができ、左右に延びた稜線はとても雄大で綺麗なものでした。スネガ駅横の展望レストランで昼食にしました。ここは割合、のんびりしていました。
 スネガからは、フィンデルンという集落を抜けてツェルマットに戻るコースを歩きました。ここでもひたすら下るコースです。まずは眼下に見える山上湖ライゼーに向かい、羊の糞だらけの道を下ります。ライゼーの湖畔では草むらに寝転んだり、上半身裸で日光浴をしている若者が何人かいました。さらに坂道を下っていくと、ねずみ返しのついた古い小屋が立ち並ぶフィンデルンの集落へ出ました。小屋の軒先には羊が何匹も寄り集まってじっとしています。羊は昼寝しているのか、それとも暑いので動かないのか、刺激しないようにそっと通り抜けました。
 フィンデルンの集落の中心には、白い小さなチャペルがあり、チャペルとマッターホルンの組み合わせは、ポストカードやカレンダーなどで使われる絶好の撮影ポイントらしいです。しかし、ここでもまたまた雲がじゃまして良い写真が撮れませんでした。コース周辺には、ところどころにカフェがあり、ソファが置いてあったり、軒先にテーブルとパラソルが出ていたりして、真正面にマッターホルンが見えるような作りになっていました。昼食を食べたばかりなのについつい引き寄せられてしまいます。村を抜けてさらに林を抜けると、朝乗った登山列車が走った鉄橋が下に見えてきたので、登ってくる列車を見ようと、しばらく休憩しました。鉄橋をゆっくり走る列車の写真を撮ってさらに下り、ツェルマットの村へ戻りました。
 その日の夕食は白身魚でした。が、どんな味だったか何の魚だったかは覚えておりません。
 4日目、ツェルマットからアンデルマットを経由し、グリンデルワルトに移動です。ツェルマットではもう2、3泊はしたかったです。後ろ髪を引かれる思いでツェルマット駅から氷河特急に乗り、アンデルマット駅へ向かいます。特急という名前がついていますが、時速30km程度でゆっくりと走る観光列車です。お土産の車内販売もありました。アンデルマットでツアーの観光バスに乗り換えました。バスは少し戻ってフルカ峠に寄り道し、峠のドライブインからローヌ氷河を見物しました。昔はこのあたりを列車が走っていた為、氷河特急の氷河はここに由来しているとのこと。ドライブインの店内からは氷河まで下りられるように道がつけてあり、小銭を店に払って氷河に下りてみると、なんと横穴を開けて氷河の中に入れるようになっていました。さっそく穴に入ってみると、青っぽい光がとても不思議な色合いでしたが、金払った割にはちょっとしょぼい観光でした。再びバスは峠をぐるぐる下り、グリンデルワルトの村へ向かいました。グリンデルワルトは、ベルナーオーバーランド地方にある標高1067mの小さな村ですが、ヨーロッパ三大北壁の一つであるアイガー(3970m)の麓にあり、とても人気がある宿泊地です。夕方、ホテルに到着しました。村の規模はツェルマットと比べてもかなり小さく、30分もあれば歩いて一周できるくらいです。



 ホテルからは、アイガー北壁が目の前で、ホテルとの間には大きな谷を挟んでかなり距離があるですが、じっと見上げていると首が痛くなるくらい雲の中にそびえ立っていました。この北壁のディレティシマ(直登ルート)を開拓したのは日本人だったそうなのですが、こんな雪も付かないような垂直の岩壁を直登するなんて想像もつきません。夕暮れに見た北壁の迫力に、ただ圧倒されるばかりでした。アイガーの後ろにはさらに、メンヒ(4099m)、ユングフラウ(4158m)の山が連なっているのですが、ホテルからは見ることができませんでした。



 5日目は、これらの山を見にユングフラウヨッホ展望台(3454m)へ登山列車で上ります。
ちなみにヨッホとは、「鞍部」の意味です。8時にグリンデルワルト駅から登山列車に乗り込みました。列車は山麓の緑の谷と高原を抜けて、ユングフラウヨッホへの乗換駅であるクライネシャイデックへ向かいます。列車は途中の谷底の駅でスイッチバックして上るのでアイガーの眺めを車窓から楽しむには、グリンデルワルト駅で列車に乗り込む際に後ろ向きに座るのがおすすめです。クライネシャイデックを出た列車は、ユングフラウの氷河を右手に山の斜面を上り、途中からアイガーの岩のトンネルに突っ込んで、真っ暗な岩の中をぐいぐい上ります。
 トンネル途中に上りの停車駅が2個所あり、最初のアイガーヴァンド駅(2865m)では5分ほど停車してくれたのでアイガー北壁のド真ん中にガラス越しに顔を出すことができました。登攀者の避難場所としても利用されたりしているそうです。
 乗り換えてから約50分で、標高3454mのユングフラウヨッホ駅に到着、駅のホームには『トップオブヨーロッパ』の看板がありました。駅からエレベーターで結ばれている展望台のテラスに出ると、全長約22kmのアレッチ氷河の流れを足元からはるか彼方まで見渡せました。駅構内の地図を見ると、外に出られるようなので、サングラスをかけて外へ出てみました。目の前に雪原が広がり、正面やや左手にメンヒが見え、メンヒ小屋への圧雪された道が伸びていました。右手には小さなスキー場があり、リフトが1本動いていました。振り返るとユングフラウ、目前のメンヒは、天候さえ良ければ山頂まで登れそうな距離でしたが、「クレバス注意」の立て看板もあったりして、素人が突っ込むにはかなり危ないようです。特徴のあるピラミッドはメンヒが柱状節理の山ということがよくわかります。
 展望台ではいろいろなアトラクションもあり、観光客向けの犬ゾリや、氷河トレッキング、メンヒ登山のガイドもおり、ザイルを組んで山頂に連れていってくれるようです。雪原でぶらぶら遊んだあと、駅に戻り、郵便ポストがあったので実家に絵葉書を送ってから山を下り乗換駅のクライネシャイデックで昼食、自由行動となりました。
 クライネシャイデックからは、のんびり村に戻る下りのハイキングコースがあり、多くの観光客が歩いていました。実際、他にもいろいろなハイキングコースがあったので、迷いまくりだったのですが、『アルプスの宝石』と呼ばれる、バッハアルブゼー(2265m)の山上湖に行ってみることにしました。バッハアルブゼーに行くには、ホテル近くのゴンドラ乗り場からフィルスト(2171m)の展望台まで上り、そこからさらに徒歩約1時間のハイキングです。フィルストは、観光客も数えるほどでした。観光客の大半は谷の向こうのユングフラウ方面に行ってしまうのでしょう。
 さっそくバッハアルブゼーに向けて歩き始めました。ゴンドラ乗り場でもらった地図と標識を頼りに進みます。少し登ると、一気に視界が開けました。グリンデルワルトの村が見下ろせます。進行方向左手にヴェッターホルン、シュレックホルン、アイガーの山々がそびえています。空には、カラフルなパラグライダーがちらほら飛んでいました。思い出してみれば、モンブラン、マッターホルン周辺でも、パラグライダーが飛んでいました。パラグライダーのメッカなのでしょうか。
 平坦な歩きやすいハイキングコースをどんどん進みます。スイスでも日本同様、ハイカーはみんな気軽に挨拶をかわしてくれます。やがて小さな小屋が見えてきました。小屋の近くの湖畔で牛が一頭ねそべっており、数名のハイカーがいました。どうやらそこが、バッハアルブゼーの山上湖のようです。湖というほど大きくはなかったですが、風の止んだ湖面に写るアルプスはとても綺麗でした。北アルプス鏡平のスイス版という感じです。ハイキングコースは、バッハアルブゼーから更に奥の方へと続いていたのですが、風が出てきて雲も少し低くなってきたので、引き返しました。戻る途中、雷がゴロゴロ鳴り出しました。あっという間に天気が変わりました。いまにも一雨きそうな雰囲気の中、ゴンドラ乗り場へ急ぎました。乗り場横のレストランに入ったとたん、ザーっと一気に雨が降り出し、雨具は一応持っていたものの、ぎりぎりセーフでした。雨やらガスでは、いくら標高が高くても何も見えません。夕立っぽいので雨宿りしてみることにしました。夕方のレストランは、3組ほどの客がいるだけで閑散としていました。リンゴジュースを飲みながらボケーっとしていると、レストランの厨房のほうで店員が何やら騒いでいます。何やろ?と見てると野キツネが一匹、エサをもらいに来たようです。野キツネなんて北海道をぐるぐるしたときも見たことなかったのに、こんなところで見られるとは思いもしませんでした。やがて雨もあがったので、少しフィルストからの景色を写真に収めてからゴンドラに乗って村へ帰りました。
 夕食は、ブラートブルスト(焼きソーセージ)を食べました。夕暮れのアルプスも今夜で見納めです。レストランの窓からアイガーが見えていました。日が暮れると、ポツポツと稜線あたりに灯が見えました。登攀者がいるのか、テントの明かりなのかわかりませんが、いつかまたゆっくり歩きに来たいと思いました。
 最終日、空港のあるチューリッヒまで、ルツェルンとマイエンフェルトを観光しながら最後の移動です。中世の面影を残したルツェルンの街みをガイドの後について観光し、くだらない土産物屋を冷やかした後、オーストリア国境近くのマイエンフェルトへ。ここは、ヨハンナシュピリの名著『ハイジ』のモデルになった村で、観光地化されており、物語そのままの、のどかな風景が作られてあります。ここの駐車場で、ナビ付きの日本製の大型バイクに乗った年配の夫婦と出会ったのですが、「イングランドからダンデムであちこちの国を回る」みたいな事を話していました。明日はもう日本に帰る自分にとっては、なんともうらやましい限りです。ハワイでバイクを借りてぐるぐるしたことがありますが、広いヨーロッパのツーリングにもあこがれます。
 夕方、チューリッヒ空港そばのホテルに着きました。今日のダラダラした観光は余計でした。ツェルマットかグリンデルワルトでで、もう一泊したかったです。後はホテルのインド料理店でスイス最後の晩餐です。みんなでステーキのコース料理だったのですが、隣のフロアのカレーバイキングが食べたかったです。この融通の効かなさが、お気楽団体ツアーのツライところです。ツアーの食事のほとんどは、イモやらチーズやらで、気に入ったメニューがなかったのですが、その点は日本の山小屋メシのほうがはるかに充実しており旨いです。ただ日本の山小屋のほとんどが、自分の足である程度登らなくてはたどり着けないのに対して、スイスはゴンドラや登山鉄道で誰でも気軽にアプローチできるようになっているのが凄いと思いました。汗をかきかき山に登って縦走する硬派な山旅もいいですが、たまには手ぶらで下山ばっかりのスイスアルプスのハイキングもいかがでしょうか?
スイスで撮った写真の一部をブログにUPしてますので、お暇な方はご覧下さいませ。

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おしまい。